視点・論点「音楽は誰のもの」

NHKの「視点・論点」という番組で、ピーター・バラカン氏が日本の音楽産業の著作権に対する取り組みについてコメントしていました。最近の輸入CD制限問題、CCCD等について、かなり厳しい指摘をされていました。凄く興味深い内容だったので、書き起こしてみました。

6月初めに、著作権法の部分的な改正が行われました。これは所謂「輸入権」という物を設けるもので、目的は主にアジア諸国から日本に還流する安いCDを規制することです。こういう還流盤というのは、日本のレコード会社がJ-POPを海外に広める為に、アジアの国々に販売権の契約をし、その国の市場に出たCDが日本に逆輸入され、ディスカウントショップなどで国内盤のCDよりかなり安く売られているものを指すのです。現在は1億7千万枚という市場全体の内、68万枚程度のものなので、わざわざ法律を改正する程の問題なのか、疑問に思う人が多い筈です。「将来的にこの数が何十倍にも膨れ上がり、海賊版の製造販売にも拍車をかける恐れがある」と、音楽産業側が懸念しているようです。
本当は、日本の音楽だけを保護するつもりで始まったこの話は、それが差別的だとするアメリカのレコード協会の強い意見を受け入れて、結局他国の音楽、所謂「洋楽」も含むような法文になってしまいました。その結果、アメリカやヨーロッパを始め、世界中から日本に輸入され、多くの音楽ファンに楽しまれているCDが規制の対象になるのではないかと、一部の音楽関係者が心配し始めました。特にマスメディアに殆ど取り上げられることなく、法案が参議院を通過したので、陰謀めいたものを感じる人もいたのです。レコード会社の中にも、このような動きがあることを知らないスタッフが少なくなく、大手レコード会社のトップの経営陣だけで話が進んでいたわけです。法案に関する情報がインターネット等で広がり始めたら、あっという間に数万人の音楽ファンによる署名運動が起こり、日本レコード協会と各レコード会社の連名で、「欧米発の洋楽CDの輸入を規制しない」という発表が出されました。
最終的には、日本における音楽の著作権を所有する会社が、自社の私的財産を守るのは勿論自由です。しかし、市場というものは需要と供給の微妙なバランスの上に立っているわけで、レコード会社が消費者の信頼を失うと、誰の利益にも繋がりません。最近日本国内で発売されるCDには、CCCD(コピーコントロールCD)が増えています。これは名の通り、複製出来ないように仕組まれたCDです。今のアメリカでは、レコード会社が販売するCDに比べて、録音が可能な所謂「生CD」の方が10倍も売れているそうですから、一見まともな話のように聞こえます。ところが、お金を払って買ったCDを複製するなと言われたら、消費者はどのように感じるのでしょうか? MP3プレイヤーを持っている人が多く、今後持たない人がいないくらいの社会になることが間違いないのに、CDを買ったとしてもMP3プレイヤーで聞きたかったらもう一度買いなさい、とレコード会社が言っているようなものです。
音楽を複製することは今に始まった行為では勿論ありません。以前はカセットテープやMDなどで同じことをしている人が大勢いましたし、特にこの日本では、70年代のFM放送は、ほとんど無料コピーを奨励するような媒体だったのです。時代がデジタルになったら複製物のクオリティが当然上がりました。そしてインターネットを通じて、音楽をデータとして無料でダウンロードすることが可能になったら、たとえそれが違法だとしても、お小遣いの少ない若者がその方法を利用しない手はないでしょう。アメリカでも、ヨーロッパでも、レコード協会などの権利者団体が違法ダウンロードをした個人を起訴し、高額の罰金を課しています。こうした措置によって抑止効果が生まれているということもあるでしょうが、面白いことに、アメリカ、そしてこの前からヨーロッパでも、無理のない価格による有料ダウンロードのサービスが始まって、それがたちまち人気が出て、ちゃんとビジネスとしても成立しそうな気配です。つまり、複製するなという無茶なメッセージを送ったり、犯罪者として罰したりするよりも、消費者が喜ぶフェアなサービスを作る方がお互いにとって遥かに利益があると思うのです。ちなみに、こうした大規模なダウンロードサービスは、まだ日本では成立していませんので、合法的に聞こうと思うと、CDを買うことになります。
同じアーティストの同じCDでも、日本盤が複製出来ないCCCDアメリカ盤などの輸入盤が普通のCDという場合が多いです。しかも価格面でも、国内盤より輸入盤の方が大抵安いです。さて、消費者としてどちらの商品が魅力的でしょうか? 普通は世界のどこへ行っても輸入盤よりも国内で生産される商品の方が安い筈なのに、日本のCDは何故高いのか? 人件費などの問題も当然ありますが、本とCDの場合は再販制度というもう一つの大きな理由があります。以前より、価格が維持される期間が短くなりましたが、それでも発売から半年間は国内盤を一切値引きさせてはいけないわけです。これは音楽が文化の産物であり、競争原理を除去することにより作品が平等に扱われ、ヒット商品だけが売れるという事態を防ぐという論理です。30年前ならまだある程度理解出来る話でしたが、今のようなとてつもない品数では、全く通用しなくなっています。
レコード会社は、再販制度を撤廃させようと思ったら出来る筈です。それをしないことによって、自分達の商品の魅力を敢えて損ねているとしか思えません。商品価値を保つ為には、日本語解説をつけたり、オリジナルのアルバムには入っていないオマケの曲を追加したりするのです。これをありがたがるファンはたしかにいますが、日本語解説の質は残念ながら必ずしも高いとは言えず、ボーナストラックも、多くの場合は原盤に使用されていなかった理由が明らかなものです。こうした、付加価値を考えるのはいいとしても、その質に拘らなければ、消費者を騙すことになるのです。
音楽の価値というのは勿論主観的なものですから、一人の独断でそれを決めるわけにはいきませんが、最近の音楽業界は、あまりにも数の原理にばかり走っているように見えます。音楽制作はどうしても博打に似た側面があって、どんなに素晴らしい作品を作ったとしても、売れないときはやはり売れません。しかし、今の大手レコード会社はどれも株式を上場している多国籍企業で、彼らにとって最大の義務は株主に利益をもたらす事です。博打なんてしていられないわけです。多くの人が受け入れ易い歌手を探してきて、無難で分かり易い歌を歌わせて、派手なマーケティングでそのイメージを浸透させる。ポップミュージックの作り方として当たり前のことかもしれません。でも、最近は子供でさえ子供騙しに引っかからなくなってきています。歌の才能も無く、一発当ててすぐに消えていくような歌手が多く、そういう人のCDに2,500円や3,000円を払うのが嫌だという、お小遣いの少ない若者が大勢いて当然です。200円程で買えるシングル盤やダウンロード物も無く、仮に違法ダウンロードを利用したり、還流盤のCDを買ったりしたとしても、驚くべきことではありません。
生き残りに懸命になっている音楽産業は、短絡的な対症療法ではなく、根本的な問題を見据える必要があります。人々を権利で束縛するより、彼らが買いたくなるような音楽を作り、それを買い易い値段と方法で提供すれば、音楽産業も元気を取り戻せる筈です。デジタル時代に抵抗するのではなく、めいいっぱい利用するべきです。

CCCDも輸入CD規制もそうなんですけど・・・とにかく最近のレコード会社の方針について腹が立つのは、消費者がまるで犯罪者であるかのように、取り締まることしか考えていないってところです。あんたらは警察なのかと。こっちは客で、常にあらゆるものが良くなっていくのを望んでいるっていうのに、サービスを年々悪化させておいて、何のつもりでデカイ態度を取ってるんだと。著作権を守れというのなら、しっかり守ってる客に対しては、より一層のサービスに励めと言いたい。
・・・取り乱しました(汗)先日のavexの茶番劇に自分が凄く関心を持ったのは、今の音楽業界の腐敗の最先端を行っていたのが依田会長率いるavexであり、その依田氏が打ち倒されることによって、今の状況に何らかの変化が訪れるキッカケとなるのではないかと期待したからです。avexの経営とかどうでもいい。変わって欲しいのは日本の音楽業界なんで・・・とにかく、今は何でもいいから「変革」となる流れを誰かが作って欲しいと期待しています。
(追記)これも2ちゃんねるで見つけたのですが、依田前会長が輸入CD制限関連について国会で答弁した内容。↑のピーター・バラカン氏の言葉を聞いた後に聞くと、本当にムカついてきます。特に内外価格差についての答弁は嘘八百もいいところ・・・本当に腐ってるよなぁ、協会といい依田といい・・・
http://www.shugiintv.go.jp/wmpdyna.asx?deli_id=23914&media_type=wb&lang=j&spkid=8927&time=00:09:55.8