対独戦勝60周年:露と周辺諸国の溝深まる(毎日新聞)

ちょっと古い話題ですが、ブッシュのヤルタ会談否定発言について。
文藝春秋に載っていた佐藤優氏の文の中で、プーチンの「対ファシズム勝利六十年スローガン」についての説明があります。元ロシア担当外務官僚らしい、詳しい説明でした。要約すると

  • プーチン第二次世界大戦の連合国陣営が対ファシズム戦争に勝利したと強調することによって、1948年以降の冷戦構造の延長上にある現在の枠組みを改め、1941年時点の、連合国対枢軸国の枠組みに戻そうとしている。
  • この戦略は元々「ロシアは第二次世界大戦を連合国陣営と共に戦った仲間である」とアピールする、対欧州戦略であったが、中国と北朝鮮がこの戦略に乗ってきた。
  • 昨年11月サンチアゴで開催された日中首脳会談の席で、胡錦濤主席は今まで使ってきた「抗日戦勝利六十年」というスローガンを「反ファッショ六十年」という言葉に替えて小泉首相にぶつけてきた。これ以降、尖閣靖国・そして国連安保常任理事国入り問題についてうまくその文脈の中に位置づけることによって攻撃し、最終的に日本を「世界の変人」に仕立てようとしている。
  • 北朝鮮も、昨年12月8日、朝鮮中央テレビが「来年は反ファッショ六十年、背信的な攻撃をアメリカに対して行った日本が敗北を喫した年である」と宣伝している。

文藝春秋佐藤優「中国と田中均 日本外交の罠」より要約)
佐藤氏はこの問題について「もしもアメリカまでもが、「反ファッショ同盟」の思考の枠組みにのってしまったら一体どうするのだろうか。」と結ばれていました。しかし実際には、ブッシュはロシアの対独戦勝60周年記念式典に際して、ロシア訪問の前にラトビアグルジアを訪問し、ヤルタ会談を否定することにより、プーチンの掲げる「第二次大戦連合国対枢軸国」というスローガンをキッパリと否定する結果となりました。小泉首相のロシア訪問については、訪問前は「むざむざロシアの思惑に乗って土下座しに行くのか」という批判が数多く見かけられましたが、実際にはブッシュの強力な先制攻撃によってプーチンの意図は外れ、小泉は得意の「メディアを利用してとにかく映像的に目立つ外交(笑)」を繰り広げました。
最近の中国・韓国の日本批判の背後には、戦後六十年というタイミングで「第二次大戦連合国の正義」を最大限に利用し、現在の外交戦略の重要カードにしようとの各国の思惑があったのでしょう。ブッシュのヤルタ会談否定発言は、そういう思惑に対する明確な否定でありますが、ブッシュにとっては、逆にこのタイミングで、「テロとの対決」路線を正義として掲げる為、圧制国家か自由主義国家かという対決理念に世界の枠組みを再構築する狙いがあった・・・のかもしれません。
ブッシュが連合国という枠組みを否定する発言をしたことは、逆に日本にとって「敗戦により連合国側によってもたらされた数々の論理」を再清算する願っても無いチャンスが訪れたとも言えます。ブッシュは2002年に靖国参拝を打診し、当時の外務省に断られたという話を聞いたことがあります。今年似たようなことが起こるかどうかは不明ですが・・・日本でここ数年広まっている「戦争の歴史の再認識」という傾向・・・「修正主義」と批判される傾向でもありますが・・・その傾向を推す立場にとっては非常に追い風が吹いていると感じられます。
自分個人は・・・まだよくわかりません。ただ、どちらの方向に進むにせよ、戦後日本が大きく変わるターニングポイントに来ていることだけはたしかなのかな・・・そういう気がしてます。