ペパーミント・キャンディー 박하사탕(ASIN:B0001FAH9I)

ペパーミント・キャンディー [DVD]
休日ということで、久々にDVDで映画を見てみました。
この映画は、先日見に行った映画「オアシス」のイ・チャンドン監督の作品です。主演も同じソル・ギョング、ヒロインも同じムン・ソリでした。「オアシス」を見てかなり衝撃を受けた自分としては、いつか見てみたいと思っていた映画でした。
全てを失いボロボロになった主人公が自殺しようとするシーンから、物語が時代に逆行しはじめます。時を遡る象徴として、電車から見た線路の風景が、それぞれの時代の四季と共に映し出されます。最初は気付いてなかったのですが、よくよく見ると・・・このシーンって、逆再生されてるんですね。電車から見る通行人が後ろ側に歩いているのを見て、ようやく気付きました。
40代にして全てを失った主人公が、まず3日前に戻り、初恋の相手が死に瀕している瞬間を目の当りにする。そして更に時は遡り、会社の社長時代、暴力刑事時代、新任刑事時代、軍隊入隊時代・・・そして最後に、20代の初恋の日にやってきます。そこに至るまで、主人公は様々な経験をし、荒んだり、絶望したり、失恋したりしながら、徐々に若い日の純粋さを失っていく・・・でも、映画の方は、そんな荒んだ主人公がどんどん若く純粋な日々に近づいていくかのように進んでいきます。この感覚が・・・なんだか面白かった。この主人公が歩んだ人生そのものは、正直いって共感出来るようなものではあまりなかったし「どうしてそんなことを」と思ってしまうシーンもしばしばでした。でも・・・人生って、結局はそんなもんなのかもしれませんね。色々と共感できないような出来事で荒んでしまったからこそ、その前の20代の日々がとても美しく思える・・・そんな演出も狙われていたのかもしれません。
イ・チャンドン監督作品を見るのは2作目ですが、非常に「見たくない場面までリアルに描く」人であり、それでありながら、唐突に「絵になる」シーンも散りばめられている・・・そんな印象を今回も受けました。その、ちりばめられている「美しいシーン」が、その前後のリアルなシーン・目を覆いたくなるようなシーンですら変えてしまう・・・そのような作品に感じられました。あと、映し出される時代毎に、ソル・ギョング演じる主人公の雰囲気がガラリと変わっていくのには感心させられました。落ちぶれていたり、えらそうだったり、危ない奴だったり、気弱だったり、純粋だったり・・・よくもまぁ、一人の人物をこうも違った印象で演じることができるものですね・・・
ところで・・・主人公の刑事時代には、刑事による拷問シーンがこれでもかというくらい展開されていました。先日見に行った「殺人の追憶」でも散々出てきたシーンです。少々気分が悪くなるくらいに・・・ここまで強烈に描かれるくらいだから、この警察の拷問って、韓国では社会問題になったりしたのでしょうか? あと、主人公の軍隊時代にある悲劇が起こるのですが、それは歴史上の「光州事件」のことを描いているんだそうです。軍隊による民間人虐殺事件だそうですが・・・自分はこの映画を見るまで知りませんでした。
殺人の追憶」を見た、日本のとある映画評論家の方が「韓国映画界は、自身達の激動の時代をまだ強烈に覚えているからこそ、それを映像化するパワーにも溢れている。日本は、その「激動の時代」に対する記憶も薄れ、既にパワーも失いつつある。それが悔しい」・・・みたいなニュアンスのことをおっしゃっていました。うーん・・・一理あるのかな? 映画っていうのは、そもそも時代に色濃く反映される文化なのかもしれません。時代に翻弄され、時代を動かすようなパワーが、今の日本には足りないし、失われて久しいのかもしれませんね・・・