ハウルの動く城

紅の豚以降、宮崎駿作品は映画館で見るのが習慣になってる自分です。今回も行って来ました。自分は池袋で見たのですが、2つの映画館でかなりの上演数でまわしているので、そんなに並ばなくても普通に座って見ることが出来ました。
主人公ソフィーの描き方が凄く面白かったです。物語の序盤は少し暗めの元気の無い女の子という印象。倍賞千恵子さんの声も最初の頃は違和感あったのですが、今から思えば元気の無い役だったので、歳と声にギャップがあるくらいが丁度良かったのかもしれません。
魔法をかけられて90歳のおばあさんになってしまった途端、当然凄まじく老けるんですけど、同時に喋り方も完全におばあちゃんになって、ものすごく口数が多くなって「ウザイ」人になる。まずはここが面白かった。元々がおばあちゃん思考的人だったというべきか、逆におばあちゃんになった途端違和感が消えました(笑)
ハウルの城に居つくようになって掃除担当になった途端、今度はどんどん活発になっていく。ここらへんの描き方は「紅の豚」のポルコ・ロッソに似てるんですが、あるシチュエーションで突然若返ったりするんです。今回のソフィーの場合はある法則があるみたいで、我を忘れて熱くなったり、ハウルのことを心配したり(つまり恋心を抱いていたり)すると姿かたちが若くなる。しかし自分に自信が無くて自虐的な言葉を言ったりすると、途端に思いっきり老け込んで元のばあさんに戻ってしまう。ソフィーがかけられた魔法というのは、もしかしたら「90歳になる魔法」ではなくて「精神年齢がそのまま外見に反映される魔法」だったのかもしれません。いやこれは自分が勝手に思ってるだけですけど。
物語が進むにつれてソフィーはどんどん活発になっていって、いつのまにか折れ曲がっていた背中は真直ぐ伸びているし、顔の皺もいつの間にか殆ど無くなっている。そしてあるとき若返ったら、もう戻らなくなってしまいました。終盤でソフィーは髪を切るのですが、その姿はまるで銀髪のナウシカでした。魔法がかかる前よりも可愛くなってるんですけど・・・
一方、上映前から色々と話題になっていたのが、木村拓哉演じるハウル。なんかよくない噂を聞いていたので気にしていたのですが・・・自分的には全く問題ありませんでした。逆に凄く良かったと思います。木村君の今までの出演作品の中でも、代表作といっていいくらいの出来になったのでは?(公開前のあのマスコミのバッシングは一体何だったんだろう??・・・)
・・・で、そのハウルはいつも外で何かやってたり、何かから逃げてたり、何かと戦ってたりします。今までの宮崎作品でいうとヒーロー的立場の人なんですけど・・・今回はあくまでも主役はソフィーということで、彼の活躍の場は徹底的に映画の中では無視されています。彼は最初から最後まで「何か必死にやってるんだけど、何をやってるのかわからない人」のままでした。でも、ここが自分的には逆に面白かった。ソフィーの前にいるハウルはキザすぎたり神経質すぎたりヘナちょこだったり、あるときは怪物だったりすることもあって・・・決して「頼りになる」とは言えない人です。でもそんな人だからこそ、外見や容姿とは全く違う部分で凄く愛着が持てるキャラクターでした。特に髪の毛が変わっただけで自我が壊れてしまうくらいうろたえるシーンはとても良かった。
脇役陣の中では、まずは荒地の魔女が凄く良かったです。物語の中盤以降は、千と千尋のときの顔無し的立場になる人なんですけど、この人は序盤の悪役のときから憎めないキャラクターでした。特に王宮を凄まじく太った身体でえっちらおっちら歩いていくときのシーンが良かったですね。何気に今までのジブリ作品の中でも新しいキャラだったのではないかと思います。
カルシファーやヒン・カブ等のキャラクター達は、みんな面白いキャラだったんだけど・・・どうも最近のジブリ作品によく見られる「最初からグッズ狙いで作られたキャラクター」的な匂いがして、純粋に好きになることが出来ませんでした。今回はせっかくソフィーと荒地の魔女という「2大おばあちゃん」という強力なキャラクターがいたんだから、今までのような萌えキャラはいらなかったのではないかと思うんですけどね。
ハウルの城についての様々な設定はなかなか唸らせられるものがありました。特に「入り口」の設定は面白かったですね。色々と試して遊んでしまうソフィーの気持ちもわかります。あと、今回はとにかくいろんな形の飛行艇が出てきて、なにやら凄まじい戦いを繰り広げてました。終盤には、まるでラピュタや映画版エヴァのようなシーンも出てきましたし・・・しかし、ここまで描写に凝っておきながら、ストーリー的には「どっかで何か戦いが起こってる」レベルでバッサリ切り捨てられています。ここらへんは宮崎さんが敢えてそうやってる気がしました。
それと、今回も背景や街並の描き込みに拘りまくってました。「耳をすませば」のときは東京郊外の団地風景を思いっきり細かく描きこんでいたのが強く印象に残ってますが、同じような描き方で今回は異国の風景を表現していました。ここら辺の拘りもジブリならではですね。
あと、サリマン役を「魔女の宅急便」の老婦人の声優さんだった人が演じられていました。この人が演じると何か「真直ぐで正しい」という印象を持ってしまうんですけど、実はこの人がいちばん大きな敵役だったりします。この配役は絶妙でしたね。あと、国王役は「紅の豚」のカーチス役の人が演じてました。この声も懐かしかったなぁ・・・
ハウルの飛行シーンは、まるでナウシカの「青き衣をまといし者」の肖像画みたいでした。本当に今回は、今までの宮崎作品の総集編みたいなシーンがてんこ盛りになってました。ここら辺は賛否両論になりそうな気もしますが・・・個人的には、別に過去の宮崎作品を知らなくても楽しみ方には全然関係ない作品だと思ったし、肯定的に捉えてます。
色々書きましたが・・・昔の作品のような明快な判り易さと爽快感は無いけど、最近までのかなりお堅い作風でもなく、面白さと深さが程よく混ざり合って、かなり新鮮に楽しめる1本になったのではないかと思います。しっかりとしたアドベンチャーやラブストーリーを求める人には、合わない人もいるかもしれませんが・・・(何せ物語の設定が後半かなりいい加減になってしまうので・・・私的にはそこも良かったんですけどね)。見た直後にもう一度見てみたいと思ったジブリ作品は久しぶりでした。