諸君!「国連、知られざる誕生の秘密」(京都大学教授:中西輝政)

ブッシュのヤルタ会談否定発言がずっと引っかかっていたのですが、文藝春秋社「諸君!」7月号でいくつかこの件に触れた内容があったので読んでみました。まずは村田晃嗣同志社大学教授と細谷雄一慶応大学専任講師の対談『ブッシュ大統領「ヤルタ否定」−何故だ?』より

アメリカの大統領がヤルタ体制ヤルタ協定そのものに公式に言及したのは珍しいことです。しかも勢力圏外交そのものを否定したという意味で、先の”ヤルタ否定”のブッシュ演説はF・D・ローズヴェルトを飛び越して、第一次大戦後の国際秩序を構築しようとしたウッドロー・ウィルソンを精神的基盤としているとみていいでしょう。ウィルソンは、民主主義的な理念を世界に押し広めることこそ、アメリカの使命でなければならないと考えていました。ブッシュもイラク戦争の意義を、大量破壊兵器云々から中東に自由と民主主義を拡大する方向に転換していますが、その流れでの発言といえます。

これからの世界を、ロシアや中国のようにヤルタ以来の「力の論理」によって考えるのか、それともそういった「力の論理」に加えて、自由と民主主義といったアメリカが唱える「価値観」を前提とした形でのグローバリゼーションの拡大と、それに抵抗する勢力との対立で捉えるのか。今後の世界を占う上で、この二つの認識のぶつかり合いを観察していくことが日本にとっても重要です。小泉首相も対独戦勝六十周年記念式典に参加したのですが、「ヤルタ協定」論争について特に発言もなかったのが残念です。

日本では、イラク選挙の成功もあってか、ここ数年高まっていた「反米論」が急速に退潮しましたが、「国際民主主義の旗手・国連」対「単独主義帝国・アメリカ」という単純な図式にのっとってのアメリカ批判が一般的でした。しかし、そもそもヤルタ協定に連動して生まれた国連が、果たして民主主義といえるのでしょうか?(笑)

対談はこの内容に留まりませんでしたが、アメリカ無知でブッシュの思惑すらよくわからなかった自分が知りたかったことについては、非常に分かり易く対談の中で説明されてました。ブッシュの狙いは、5大国というパワーバランスで第二次大戦後の国際秩序を再構築しようとしたヤルタ以降の国際社会、すなわち国連設立の意義から否定して、新たな国際秩序を確立させようとすること。冷戦時代から既に五大国による秩序構築は無形化していたし、国連が掲げる理想は戦後60年実現されては来なかった。冷戦が終了し、アメリカが新たな敵として対テロ戦略を推進する中で、今や国連はアメリカにとって邪魔な存在なんでしょう。
イラク戦争で国連と対立し、結局安保理決議無しで戦争に突入したブッシュは、今後の国際戦略の中で「国連との対決」を前面に押し出してくるのかもしれません。そう思うと、国連強硬派のボルトン国連大使に任命する意図も見えるし、民主党が強硬に反対して任命を妨害しているのも頷けます。
どうも「国連」が、今後のブッシュ戦略のキーワードであるみたいですね。ちょうど「諸君!」同号に載っていた中西輝政氏の論文「国連、知られざる誕生の秘密」が、非常に興味深い内容でした。

(サンフランシスコ会議について)
当時のソ連が、拒否権の万能という主張をしていたのは、万が一、国連が反ソ包囲網と化した時にその動きをつぶすためにも絶対的拒否権を持ちたがっていたからである。具体的にソ連の非道を訴えることをできないようにしたいがための主張だということが暗号解読で判明した。そこでアメリカは、チェコポーランドのようなソ連”占領地域”における問題は国連で議題として取り上げることはない、という密約をしたのである。かつてバルト三国などに対してルーズベルトが犯した「ヤルタの裏切り」の上塗りをトルーマンがしたわけだ。それゆえソ連は反対を引っ込め、国連はかろうじて流産を免れ命をつないだのである。国連は「ヤルタの共犯者」というか、「ヤルタの申し子」であったわけで、この意味で国連は、そもそもの始めから共産主義による人権抑圧、左翼ファシズムによる自由の弾圧を黙認ないし推進することで存立してきた機構だったといってよい。
ところで、今年五月ブッシュ米大統領バルト三国ラトビアの首都リガを訪れ、世界史的な意義のある演説を行った。そこでブッシュはバルト三国や東欧の自由をスターリンに売り渡したヤルタの言葉を全面否定し「ヤルタ合意は史上最悪の過ちの一つ」と結論づけたのであった。言い換えれば、国連は創設のときから「共産主義による圧制の共犯者」としての役割を担わされていたわけで、そのような存在を生み出したこと自体が「史上最大の過ちの一つ」と、ルーズベルト大統領の後任者が今や正式に認めたということになる。

自分の頭の悪い要約方法で考えると・・・ようするに「独裁圧力国家であろうと、国家のパワーバランスだけを重視して密約主義で始まったのが国連であり、その象徴がヤルタである。そのヤルタを否定することが、アメリカにとって国連に対する最大の武器となる・・・ということか。中西氏は他に現在の国連に巣食う「プロ市民運動によるネオ・マルキシズム」についても詳しく書かれてますが、ここら辺はまだ勉強不足だし一人の方の論評だけで考えるのは危険なので、もうちょっと勉強してみたいと思います。